藍 / アイ

まるでなにもかも、小さな妖精の国のようだ

 

人も物もみんな小さく、風変わりで神秘的である

 

青い屋根の小さな家屋、青いのれんのかかった小さな店舗、その前で青い着物姿の小柄な売り子が微笑んでいる


1890(明治23)年、日本の藍染めの最盛期のころ来日したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が日本の青について随筆にしたためています。

作家であり日本民俗学者でもある彼は、当時の日本の風景を「名画のような町並みの美しさ」と絶賛しました。

 

「青の国」といわれるほどに、当時の日本では藍を多用していました。

着物に作業着、のれん、寝具まで…。さらには藍の葉や実を薬草として食したり、肌に塗ったり貼ったり、その活用の幅はとどまることを知りませんでした。

 

決して主張が強いわけではないのに独特の存在感があり、それでいて生活にすっと馴染む藍染め。

 

mioriでもこの古来の藍染めに憧れを抱き、まさに藍染めのような存在の作品を作りたいと思っています。

 

安価で扱いやすい化学的な合成藍が台頭し伝統的な藍染めは滅びつつありますが、藍を愛でるその精神は現代にも引き継がれ、2020東京オリンピックの公式ロゴマークや、サッカー日本代表のユニフォームにも藍を象徴する青色が使用されています。

 

今も昔も藍は人々を魅了してやまないようです。

藍はタデ科イヌタデ属の一年生植物です。

同じタデ科としては、ギシギシ、ソバ、「タデ食う虫も好き好き」のヤナギタデなどがあります。

藍染めの方法には「建て染め」「沈殿染め」「生葉染め」などがありますが、ここでは伝統的な「発酵建て染め」についてご紹介します。

 

ここで出てくるのがインディゴ。インディゴは藍の色素のことをいいます。

そもそもインディゴは水に溶けない性質を持っているため、葉に存在する微生物による発酵の力を借りて水溶性の染料へと還元します。

ぷくぷくと泡をたてて発酵し、まさに「生きた染料」といえます。

お分かりでしょうか?

この写真は藍の染料から出したての布ですが、上の方が早く空気に触れたため濃い藍色になっています。

 

藍は酸化することで発色します。

無酸素状態の藍の染料の中から布を引っぱり出し空気に触れさせると、みるみるうちに色が変わっていきます。

 

一連の作業の中で特に難しいとされているのが染料の維持管理。

染料は無酸素状態が好ましいため、蓋をあけて攪拌すると酸素が入り痛んでしまいます。

かといって放っておいたらすぐにカビが生えてしまう…。

 

染料の中にいる微生物は一時として同じ状態ではありません。

気温や湿度、水その他もろもろの環境の影響を多分に受けるため、その液ごとに対処法が違います。

 

よく「藍と語り合うように」「藍に毎日話しかけること」が大事といわれます。

さも自分が日本の伝統的な「発酵建て染め」をしているように書きましたが、実際はまだその境地に達していません。ゆくゆくは挑戦したいと思っています。

 

mioriの藍染め作品はすべて天然のインド藍で染めています。

インディゴ含有率が3~4%といわれている藍の生葉ではなく、特殊加工で濃縮された染料を使用しています。

 

染料を無酸素状態に還元するため、わずかばかりの薬品を使っています。ハイドロと呼ばれるもので、漂白剤としても使われているものです。

 

好みの色合いになるまで染色と水洗いを繰り返していきます。

● 藍の花言葉…「美しい装い」「あなた次第」

 

「あなた次第」は、藍によって淡い色から濃い色まで自在に染めることができることに由来しているようです。

ひとくちに「藍色」といってもたくさんあります。数えられるだけでも48色。

 ● 色彩学から見る「青」のカラーイメージ

 

「クール・爽やか・信頼感・誠実さ」を連想させる色です。

青色は赤色とは対称的で、心身の興奮を沈め感情を抑制する色です。

これは青の光が副交感神経を刺激することで、体温や脈拍が下がり、呼吸も深くなるためと考えられています。

 

集中力を高めたいとき、冷静な判断が求められる大事な場面で青を取り入れてみてはいかがでしょうか。


〈参考文献〉

・朝日百科 世界の植物(朝日新聞社)

・薬用植物学各論 木村康一・木島正夫共著(広川書店)

・正藍染・紺邑「紺屋の白袴」http://kon-yu.cocolog-nifty.com/blog/(最終閲覧日:2021年2月14日)

・カラーセラピーランド「色彩心理学」https://www.i-iro.com/psycholog(最終閲覧日:2021年2月14日)